まぶたのブログ 形成外科医が書いたまぶたのお役立ちサイト
一美容形成外科医がまぶた(眼瞼下垂症、まぶたのたるみ、二重など)についての役立つ情報を書いております
切らない眼瞼下垂症という言葉はとても魅力的な言葉です。
眼瞼下垂症という状態を改善しようと思えば、通常皮膚を切開してその状態を改善することが一般的です。
そこで「眼瞼下垂症は切らずに治せます!」などという言葉を見ると「おっ!」と思うかもしれません。
ところが手術の現実とは裏腹に「おっ!」という感情を引き出すために使われている言葉となっていることがあります。
「切らない眼瞼下垂症」とは何かということについては「切らない眼瞼下垂症手術とは」というページで書かせていただきました。
そしてその皮膚を切らない眼瞼下垂症には大きく二つあるというお話をしました。
その二つは実際には内容に大きな差があります。
皮膚を切らない眼瞼下垂症手術のうち、埋没タッキング法と言われる方法はいわゆる盲目的に結膜を糸でぎゅっとしばる方法です。
ですので結膜(まぶたの裏の粘膜)のみを見ながら糸をループ状にかけてしばる治療方法になります。
これはいわゆるふたえ手術の埋没法に似た雰囲気があります。
一見、まぶたに対する負担が少なそうですが、本来の「腱膜を瞼板に固定する」という治療方法から比べると大雑把な治療ということになります。
実際に治療をすると眼瞼下垂症が軽い場合には確かに改善傾向になることがありますが、中等度以上の場合には手術間もない時には良くても数か月のうちに後戻りしているということをたびたび目にします。
緩んだ腱膜を瞼板に固定しているかいないかの違いを知らずに「皮膚を切らない眼瞼下垂症手術」=「切らない眼瞼下垂症手術(埋没タッキング法)」と考えることは注意が必要です。
皮膚を切らない眼瞼下垂症手術と称してまぶたの裏から眼瞼下垂症の手術を行う場合、埋没タッキング法のみしかできない医師が存在することも事実です。
埋没法によるタッキングはそれらしい方法を行えば、なんとなく手術ができてしまいます。
うまく結果が出ない場合にはもう一度糸留めの距離を取り直して行うとうまくいくこともあります。
まぶたが開くようになってその効果が持続した場合にはとても良い治療方法です。
それでもうまくいかなければその治療方法の限界ということになります。
腱膜を確認して瞼板に固定する方法ではそのようなことはありません。
しかしながらまぶたの裏から負担を最小限にして腱膜を目で確認するにはそれなりの経験が必要になります。
皮膚からの切開眼瞼下垂症手術を100例、200例と行ったとしても裏から行うことはできるようにはなりません。
それほどまぶたの裏から腱膜を確認して瞼板に固定することは難しいことです。
「皮膚を切らずに眼瞼下垂症手術」を行いますと言ったものの、そもそも瞼の裏から腱膜を固定することができない美容外科医や形成外科医が存在することも事実です。(割合的には半分以上だと思います。いや、8~9割以上かも知れません。)
「切らない眼瞼下垂症(埋没タッキング法)」が適応となる症状であれば必ず腱膜を裏から留める価値があるということになります。
ということは埋没タッキング法で行って思うように眼瞼下垂症が改善しなかった場合には、腱膜を目で確認して留めてあげれば改善する可能性が十分にあります。
にもかかわらず埋没タッキング法で行って改善しなかった場合に再度ご相談にいかれると、皮膚を切開しないと無理と言われたという方に頻繁に出会います。
皮膚を切らない眼瞼下垂症手術では無理ということのようです。
でも実際にはタッキング法では改善しなくても瞼の裏から腱膜を固定してあげれば改善することがほとんどです。
皮膚を切らない眼瞼下垂症手術と称して埋没タッキング法のみしか出来ない場合、タッキング法のみで中途半端に瞼に瘢痕を残して、それでうまくいかなければ皮膚の切開が必要というのはおかしな話なのです。
皮膚を切らない眼瞼下垂症の限界は瞼の開き具合ではなく、二重のラインや皮膚のたるみが皮膚切開に比べてコントロールしにくいというだけです。
タッキングでうまく瞼が開かない場合には瞼の裏から腱膜を目で確かめて固定してもらえるかを確認することが大切です。
もし、できなければ中途半端な瘢痕を瞼に残すのみとなる可能性があるので注意が必要です。
埋没タッキング法による眼瞼下垂症手術の場合には腱膜を瞼板に固定する治療ではありませんので、微調整が効かないという欠点があります。
これくらいの距離を糸で縮めればほどよく瞼が開くのではないかという治療です。
やってみてもう少し開きたいなという場合には再度糸を入れなおしてもっとたくさん距離をとってみれば開くようになるかなという具合です。
一方、腱膜を目で見て瞼板に固定する場合にはもう少し開きたいと思った場合には1mm単位で調整が可能です。
ただし、通常の皮膚切開の眼瞼下垂症手術でも同じですがどんなに微調整を行ってもまぶたに反映されない症状ということもありますのでそのことは心に留めておく必要があります。
眼瞼下垂症手術というのは本来とても難易度が高く繊細な手術です。
一方、切らない眼瞼下垂症手術ときけばそれが簡単にできそうな雰囲気ですが、治療の選択は本当のことを知って慎重に選ばれることをお勧めいたします。
いわゆる「切らない眼瞼下垂症手術」をお受けになられた後によくある例についてご紹介します。
著者 石川勝也
役職 プラストクリニック院長
資格 日本形成外科学会専門医
日本美容外科学会専門医(JSAS)